週刊:日本近現代史の空の下で。

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天皇陛下が国民を統合し続ける理由:日本人という求心力は案外と脆い

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「象徴天皇としてあり続けるためには、主権者である国民の理解や支持が必要であり、自ら積極的に動いて国民を統合していくことこそ天皇の役割だと考えているのでしょう」と、瀬畑源・長野県短大准教授は、天皇陛下が考える「象徴」の役割を指摘しています(朝日新聞2017年12月9日朝刊3面)。

日本国憲法の第一章第一条は、

天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

となっています。国民主権のもと、国民みんなの考えによって、天皇はその地位にあり、天皇は、「日本国民統合」の象徴であるとされているわけですが、国民統合って、何でしょう。東日本大震災のときのキャッチフレーズ「ひとつになろう日本」みたいなものでしょうか。ではなぜ、この民主主義のもとで、ひとつにならなきゃ、いけないんでしょうか。

天皇陛下は、なぜ、日本国民を統合するために、自らが積極的に動く必要があると考えているのでしょうか。

以前書いた、「日本精神・前編:「日本人らしさ」の源流は、満洲事変後にあった」では、いまの僕らが考える「日本人らしさ」が、じつは思ったよりも浅い歴史しかないことを指摘しました。

また、「カズオ・イシグロ氏の日本論から:「どん底からの逆転」神話の嘘と罪」では、こう書きました。

日本人としてのアイデンティティは、国民的な(ある種の)イベントによって認識、形成、強化されるものだとも考えています。その意味で、悲惨な戦争体験とは、日本人が日本人であるために欠かせないイベントであり、しかもその最大のものは、1945年8月15日の玉音放送だったのでしょう。別の言い方をすると、終戦の8月15日をもって、日本人はまさしく日本人となったのです。「終戦」とは、ある意味、「日本人」の始まりの日なのです。

日本人という民族は、ずいぶんと古くから、この日本列島で代々暮らしつづけていますが、日本人という自意識、アイデンティティをもつようになったのは明治期以降ですし、そのアイデンティティも、「イベント」によって強化されてきた、僕はそうとらえています。

日本人というアイデンティティが、実は案外と脆いものだということを、天皇陛下は知っているのではないでしょうか。放っておくと、ばらばらになってしまう、幼稚園児が砂場でつくった家のように。

防衛研究所が所蔵する、「天皇制の問題に就て」と題した史料を読んだことがあります。第一復員省資料課が、昭和21年2月に作成したものです(中央-全般その他-153)。以下は、その一部抜粋です。「〓」は読めなかった箇所、{ }内は僕のメモ。若干不正確かもしれませんが、参考までに。

三、天皇制の危機
1.今次世界大戦を転機として世界は圧倒的に民主主義化せらる(民主主義にも各種の形態あるも其傾向として勤労の国家性と)生産機関の社会化は必然
2.世界一環の思想濃化しつつあり
社会は一なる米を中心とする世界連邦との傾向英を中心とする欧州連邦の傾向此場合各国主権は如何になるか
3.航空機の発達により戦争の形態は勿論政治形態の変化は必然的に主権をある程度制限する傾向あり
〓令えば戦争惹起の場合に於いても国際的聯合解決の傾向を生ず
原子爆弾に対する国際的支配の問題、広地域主義の国際的教育、労働条件の国際化
飛行機による交通の発達は世界的領域の観念にて主権を制限す
言語にしても各国文化の国際性を生ず
以上の如き諸要素は国家の特殊性を薄くす
天皇神聖にして侵すべからずの観念も当然変更せらるべきなりとの議論の台頭あり)
更に国内的「デモクラシー」の趨向を見るに
議会中心の「デモクラシー」は国際的には崩壊しつつあり
国際的には其国の執行権を強化するという考え方が支配的なる
議会を通して強大なる政府を造り以て政府の執行権を強化する
という傾向が支配的にして英国が其の範なり
即ち強力なる背景を有する人材の手によって政治をやることが最近の世界の動きなり米国も亦大統領の権限は議会ではどうにもならぬ程強化さ大統領の執行権は今時戦争にて益々強化せられたり然るに現在の日本の民主主義は全く逆行しつつあり
仮令は各の趣旨よりすれば小選挙区制を可とするに拘らず大選挙区制を採用して小党分立の弊を助成しあり
斯くして政治的混乱を愈々激化し其混乱の中に天皇制は翻弄さるる危険性に直面す
将に天皇制は嵐の中心に在りというべし
第四、結言
以上民間の研究を結論付くれは日本国民の意志は圧倒的に天皇制支持てありなから客観的状勢は之れと反対に天皇制は極めて危険に瀕しているといふ事が出来る
従って天皇制を支持せんか為には自然放置の呑気な態度は許されぬ
日本に関する限り天皇制は心配なしとの楽観的態度は禁物てある
然らは之か援護の具体的方法如何といふ事になるのてあるかそれは玆〓{ここでは、か?}
差控へたい、只要は国内的には積極的闘争の展開にあり対外的には天皇〓理論の完成と之か宣布てあるといへるのてはなからうか
(了)